Research研究テーマ
#004
材料機能の起源となる格子欠陥の理論的探究
材料の機能の多くは完全な結晶ではなく、点欠陥、転位、界面等の格子欠陥に由来します。「欠陥」と聞くとネガティブな印象があるかもしれませんが、実は格子欠陥をうまく活かすことで新しい機能を付与している実用材料がたくさんあるのです。当研究室では材料機能の起源となる格子欠陥について、理論的に解明を進めています。
例えば図1に示す新しい青色蛍光材料では、窒化ホウ素に添加したセリウム原子(点欠陥)が発光の中心になっています。窒化ホウ素を構成するホウ素と窒素のサイズに対して、セリウムは非常に大きく、一見添加することは困難です。そこで第一原理計算により検討すると、セリウムの周りのホウ素が複数抜けた特殊な欠陥構造になることで、サイズのミスマッチをうまく補償できることが予測されました。この理論予測の結果は走査透過型電子顕微鏡観察により確認されています。

図1.Ce添加窒化ホウ素(BN)単結晶における青色発光中心の解明。(左)結晶のカソードルミネッセンス像、(中)第一原理計算により予測された特異な複合点欠陥の構造、(右)走査型透過電子顕微鏡観察による実証。
Ceが4つのB空孔を伴う特殊な欠陥構造をとることでBやNとの巨大なサイズミスマッチが緩和され、Ceが結晶内に取り込まれることを解明しました。
この例の他に太陽電池等への応用が期待される窒化物半導体(図2)や硫化物半導体(図3)、ペロブスカイト酸化物(図4)、酸化物ワイドギャップ半導体(図5)等の格子欠陥についても、その特徴を原子・電子レベルで明らかにしています。材料の機能の起源を正確に理解して設計指針を立てることで、新しい機能の創出につなげます。

図2.窒化銅の新しいドーピング法の理論予測と高性能半導体の実現
希少元素を含まない半導体として着目されている窒化銅について、新たなp型ドーピング法を第一原理計算により予測し、その結果に基づいて共同研究者が高移動度p型半導体を実現しました。東工大の松崎特任助教、細野教授、NIMSの木本副拠点長、越谷研究員、上田主任研究員らとの共同研究の成果で、2018年6月にAdvanced Materials誌オンライン版に掲載されました。また、日刊工業新聞、化学工業日報、マイナビニュース、国立環境研究所ニュースなどで紹介されました。

図3.新規太陽電池光吸収層材料Sn2S3のp型ドーピング法の提案
様々な点欠陥の理論的検討から、Snや陽イオンドーパントが格子間サイトに挿入されてドナーとして働くことにより、Sn2S3がn型の指向性を示すことが予測されました。ドーパントとしてサイズの大きなKを選択すると、格子間サイトへの挿入が抑えられてSnサイトを置換し、アクセプタとして有効に働くことがわかりました。

図4.BaTiO3における点欠陥・ポーラロンの新しい理解
規則不規則変態モデルに基づいて立方晶BaTiO3中の点欠陥と電子ポーラロンを再検討することで、電子の局在がTiの局所変位と密接に関係していることを明らかにしました。

図5.Ga2O3多形におけるホールポーラロンの安定性の予測
パワーデバイス用ワイドギャップ半導体として注目されているβ-Ga2O3及びその他の多形について、ホールポーラロンの安定性を系統的に調べました。その結果、いずれの多形においても、ホールはポーラロンとして局在する傾向が強く、その性質に伴ってアクセプタドーパントのホール励起エネルギーが非常に大きくなることを予測しました。このため、いずれの多形についてもp型化は困難と考えられます。